講演「なぜ生成AIは現場に浸透しない? – 3000のアイデアを生み出したノウハウを公開 」~日経クロステックNEXT 東京 2024~
2024年10月10日(木)・11日(金)に、「日経クロステックNEXT 東京 2024」が開催されました。本イベントにSCSKおよびInsight Edgeが登壇し、生成AI活用を組織に浸透させる手法とその適用事例について講演しました。本記事では、当日の講演内容をご紹介します。
イベント概要
日経クロステックNEXTは、IT・技術・経営の最新トレンドを扱い、ビジネスパーソンの課題解決に役立つヒント・気づきを提供するDXの総合展です。
日経クロステックNEXT 東京 2024
https://events.nikkeibp.co.jp/xtechnext/2024tky/
登壇者紹介
講演「なぜ生成AIは現場に浸透しない?~3000のアイデアを生み出したノウハウを公開~」
現場への浸透を阻む3つの課題
総務省の調査によると、日本では「業務に積極的に生成AIを活用している、または、特定の範囲で利用している」と回答した企業は約43%にとどまっています。アメリカ、ドイツ、中国と比較すると利用率は低く、日本での生成AIの業務利用はまだ慎重な姿勢であると言えます。
SCSKでは、生成AIの現場への浸透を試行錯誤する中で、「ビジョン、スキル、安心安全」の3つの要素が不可欠であり、これらの要素への包括的な対応が重要であると考えています。
「ビジョン」については、会社から生成AIの利用を要請されても、現場では具体的な活用方法がわからず迷走するケースや、「生成AIなしでも業務は円滑に進行する」という現状認識があり、会社と現場での課題意識に相違が生じることがあります。「スキル」については、ChatGPTのような生成AIを実際に試す環境がなく、誤った回答(いわゆるハルシネーション)を過度に警戒するケースが見受けられます。「安心安全」については、情報管理に関する適切なガイドラインやルールが定まっていないことで、個人情報や機密情報の取り扱いにおけるリスクなどの懸念の声も聞かれます。
■生成AI活用を浸透させる3つのフェーズ
SCSKグループは、技術戦略「技術ビジョン2030」として、AIをはじめとするデジタル技術を積極的に習得し、自社の製品やサービスに適用するというビジョンが示されています。このビジョンに基づき、全社視点で生成AIの利用を浸透させるためのアプローチとして、3つのフェーズに分けて推進しています。
第一のフェーズ「触ってみる」では、社員が生成AIを安心して試行できるよう環境の整備が重要であると考え、社内用のセキュアな環境を用意し、個人情報や機密情報の取扱いに関するガイドラインも策定しました。
次に、第二のフェーズ「アイデア創出」では、自社製品やサービスへAIを適用する目標に向けて、組織全体でアイデアを創出することが重要です。生成AIの活用方法に関する疑問に応えるため、使い方を考えるワークショップを実施しました。
最後に、第三のフェーズ「PoC(概念実証)」では、創出されたアイデアを具体的な形にするための、プロトタイプ作成や実証実験を実施しました。
このような一連の活動を通じて、社員がアイデアを持ち寄り、業務改善や自社製品・サービスの価値を向上させるために生成AIを活用することを目指しています。
SCSKにおける生成AIの浸透度合いを示す一つのデータとして、社内用生成AI環境の利用状況を紹介します。2023年6月の社内リリース以来、利用者は右肩上がりに増加し、2024年7月には2万人(パートナー社員も含む)が利用しています。
■生成AI活用の「アイデア発想方法」
生成AIを活用するアイデア発想において、SCSKでは、「アイデアキッチン」というワークショップを開催し、延べ3,000個のアイデアを生み出しました。このワークショップは主に組織内での生成AI活用の浸透を目的としており、各組織の業務に則した内容で実施しています。
各組織における日頃の業務を棚卸して、業務上の課題に対して生成AIを適用するアイデアを発想します。また、アイデアは発想して終わりではなく、プロトタイプ作成や実地検証をおこない効果を評価しています。
また、検証結果は組織内の関係者間で共有し、特に効果的なものは全社へも広く共有しています。共有の際には、可能な限り定量的に評価し、それが難しい場合には効果の可能性を明確に結論づけることが重要と考えます。
生成AIの活用アイデア発想法をまとめたクックブックを公開 ~「Generative AI アイデアキッチン」 クックブック~|SCSK TECH
SCSKにおける生成AIの活用事例紹介
続いて、SCSKにおける具体的な事例として、生成AIを活用した業務効率化のプロジェクトを紹介します。
■プロジェクトの経緯と概要
2024年2月、SCSK産業事業グループとInsight Edgeが連携し、営業業務における生成AIを活用した生産性向上を目指す取り組みが始まりました。
このプロジェクトでは、営業担当の社員が参加し、業務の洗い出しを行い生成AIの活用に関するアイデアを創出しました。これらのアイデアを具体的な施策に落とし込み、施策の実施とその定着化を図りました。
■プロジェクトのゴールと実施内容
プロジェクトのゴールである「生成AIによる生産性の向上」に対して、具体的な目標として「人材育成」と「施策実行」に分解して取り組みを進めました。
人材育成の観点では、生成AIを活用できる人材の不足が課題であるため、研修を通じて必要なスキルを習得することを目指しました。施策実行の観点では、即時実施可能なプロンプトテンプレートの開発など、短期的な成果を積み上げることを重視しました。さらに、短期的な施策の検討実施と並行して、中長期的には、RAG(Retrieval-Augmented Generation 検索拡張生成)やマルチモーダル技術(テキスト、画像、音声など異なるタイプのデータを統合して処理するAI)を活用した施策案の検討も行いました。
プロジェクトにおける具体的な実施内容は以下の通りです。
1)生成AI研修
技術の最新動向やプロンプトエンジニアリングなど、生成AIを扱う際に必要な知識を学ぶ。
2)ハンズオン(業務洗い出し・アイデア創出)
生成AIで効率化できる業務を洗い出し、具体的な活用アイデアを創出する。
3)PoC/定着化:
アイデアの実現可能性を評価し、PoC(概念実証)を実施。本運用に進んだアイデアは、組織内での定着化を継続して行う。
ハンズオンの成果物
ハンズオンでの成果物については下図の5つ(「業務概要」「業務時間」「アイデア」「期待効果」「評価」)」に分類されたフォーマットに沿って作成しました。
まず、業務の棚卸しを行い、業務内容と所要時間を基にコストを把握しました。次に、生成AIの適用可能性を考慮しながらアイデアを創出し、実現可能性と期待効果を踏まえて、PoCに進むアイデアを選定します。アイデア導入による日常業務の改善率は、定量的に示すことが難しいですが、時間や費用を5%や10%といった数値で示すことで、期待される効果を明確にすることが大切です。短期間のハンズオンでしたが、166件の業務に対して120件の生成AI活用アイデアを発想することができました。
■PoC(概念実証)
PoCでは、短期施策を実行しながら中長期施策も進めています。
短期施策としては、作成したプロンプトテンプレートを関係者に配布し利用してもらい、定期的なアンケートを実施することで利用者の増減や使用頻度を確認しています。
中長期施策としては、ハンズオンで生まれたアイデアの中でも、大掛かりな研究開発が必要なアイデアに対しての議論を進めています。
■生成AI活用の定着化
生成AI活用の定着化に向けては、アイデア創出とPoCだけでは不十分です。
組織内で全社員が生成AIを当たり前に活用できる状態にするために、勉強会開催や成功事例共有等の定着化に向けた様々な取り組み行っています。また、活用ノウハウを簡単に参照できるプラットフォームを設け、社員間での情報が流通する環境を整えました。これらの取り組みを経て、産業事業グループ営業部門では継続的な生成AIの業務活用を行っています。
SCSKが目指す未来
SCSKは、これまでの生成AIの取り組みを活かし、自律型マルチAIエージェントの開発を進めています。これは、専門的な知識をもつ複数のAIエージェントが連携し、人間からの問いかけに対して回答を返すシステムです。
「SCSK-Multi AI Agent Office」構想に向けた自律型AI エージェントの概念実証を開始
この自律型マルチAIエージェントを多様な業界や業種に適用できるよう、プラットフォーム化を目指して研究開発を進めています。また、お客様との共創を通じて、様々な企業が抱える人材課題に対応するソリューションを提供することを目指します。
先進デジタル技術の最大活用による事業構造の変革や生成AI活用による飛躍的な生産性向上の実現を目指す、SCSK技術戦略「技術ビジョン2030」を公開しました。詳細は、下記リンクからご覧いただけます。
https://www.scsk.jp/sp/technology_strategy/index.html
また、SCSKでは共に活躍していただける高度デジタル人材を募集しています。詳細は各採用サイトをご覧ください。
新卒採用サイト
https://www.scsk.jp/recruit/saiyo/
キャリア採用サイト
https://www.scsk.jp/recruit/career/