ローカル5GおよびMECの研究開発でローカル5Gの主要機能をソフトウェアで実現するシステムを開発
各国で導入が進む第5世代移動通信システム(5G)は、次世代の通信インフラとして社会に大きな技術革新をもたらすことが期待されています。また、さらに次の世代の通信規格として6Gについての準備も進められており、総務省が2020年6月に策定した「Beyond 5G 推進戦略」では、Society5.0の実現に向けて2030年代の社会像としてサイバー空間と現実世界(フィジカル空間)が一体化されたCPS(Cyber Physical System)及び、その中核的存在としてBeyond5G(6Gを含む次世代通信規格)が描かれています。 ここでは、企業独自で構築可能なローカル5Gを取り上げ、社会やビジネスにもたらす可能性や、現状課題とSCSKの取り組みについて解説します。
ローカル5Gとは何か
ローカル5Gとは、通信事業者ではない企業や自治体等が5Gを利用し、地域や産業分野の個別ニーズに応じて構築可能なネットワークを指します。 ローカル5Gでは、5Gの特徴である「高速大容量」「超低遅延」「大量接続」の各スペックを用途に応じて調整することができ、ユーザ要件に最適化されたネットワークを構築することが可能となります。 ※ローカル5Gを活用するには国が定めた無線局免許の取得が必要ですが、免許取得した他者のシステムを利用することは可能です。
通信事業者の提供する5Gサービスに対する優位性
5Gサービスには、パブリック5Gやプライベート5Gといった通信事業者のネットワークを使ったサービスが存在しますが、企業や自治体が独自で構築可能なローカル5Gには以下のような優位性があります。
エリア展開が困難な地域に5Gシステムを構築する事が可能
使⽤⽤途に応じて必要となる性能を柔軟に設定することが可能
他の場所の通信障害や災害などの影響を受けにくい
Wi-Fiとの違い
企業や自治体が独自で構築する無線ネットワークとしてはWi-Fiが普及していますが、ローカル5Gとはどう違うのでしょうか?以下に特徴をまとめました。
ローカル5Gの構築を行うためには免許が必要ですが、通信速度の変更の柔軟性や安定性、および堅牢なセキュリティを担保できる事から、工場内で移動するデバイスなどのネットワークとして優位性があります。
ローカル5Gのもたらす可能性
それでは、ローカル5Gを活用することで、どのような可能性が考えられるのでしょうか。 近年、社会のデジタル化が加速する中で、スマートフォンやPCだけでなく、各種センサーや高精細カメラのような多種多様なIoTデバイスで収集されるデジタルデータを活用する事が求められています。
ローカル5Gは5Gの特徴でもある「高速大容量」「超低遅延」「大量接続」のメリットに加え、独自で柔軟かつ安全なネットワーク環境を構築できるため、ビジネスの効率化や高度化、生活の利便性の向上、ひいては社会課題の解決への期待が高まっています。
スマートファクトリーの実現
工場の設備異常検知や製品品質確認の自動化を行うためには多数のセンサーで取得されるデータを、AIを活用してリアルタイムに処理していく必要があります。また、遠隔地の工場に対する設備の遠隔操作や、XRと組み合わせて作業員への遠隔支援のユースケースも考えられます。 設計書やデータなどの機密情報を扱う必要があるため、閉域で堅牢なネットワーク環境が求められます。
公共施設・インフラ施設の監視
空港や駅、発電所などの大規模な公共施設・インフラ施設における遠隔監視のユースケースが想定されます。AIと組み合わせる事で、設備の故障予測や異常検出時の早急な対応が期待できます。監視データには個人情報に相当するお客様や作業員の画像なども含まれるため、閉域かつ堅牢なネットワーク環境が必須です。
スマートホスピタル
電子カルテや検査画像を院内で安全に共有する事で、診察の効率化・高度化が期待できます。医療情報は個人情報の中でも特に機微な情報であるため、閉域かつ堅牢なネットワーク環境が必須です。
スポーツ観戦における新たな体験の提供
定点カメラやドローン空撮を組み合わせて様々な視点から映像データを取得し、サイバー空間上にレンダリングする事で、自由視点でのスポーツ観戦が可能になります。スタジアムで観戦する人も、リモートで観戦する人も没入感のあるコンテンツの中で新たな体験を得られるかもしれません。
SCSKの研究開発
オールインワン型ローカル5Gシステム
ローカル5GはSDN(Software Defined Networking)の適用が進むことで、専用通信機器を必要とせず導入障壁の低いシステム構築が可能となってきています。また、ローカル5Gを単純にネットワークとして構築するのではなく、アプリケーションと組み合わせる事で、その導入効果を発揮します。
SCSKでは、お客様がより安価かつ簡便にローカル5Gを利用できるよう、基地局・通信コア・アプリケーションサーバーといった必要要素をオールインワン環境で提供できるよう研究開発を行っております。また、アプリケーションサーバはMEC(Multi-access Edge Computing)アーキテクチャを採用し、エッジ端末により近い場所で処理を行うことで低遅延を実現していきます。
SCSKは2022年に総務省関東総合通信局よりローカル5G無線局免許を取得し実証実験を開始するとともに、基地局機能や通信コアなど、ローカル5Gの主要機能をソフトウェアで実現し、シングルサーバ構成を基本としたプロトタイプを開発しました。
SCSKが開発したローカル5Gシステムには以下のような特長があります。
ローカル5Gの主要機能をソフトウェアで実装
本システムでは、通信に必要な基地局機能や通信コアだけでなく、アプリケーションを稼働するためのMEC(※1)を含め、ローカル5Gの主要機能をソフトウェアで実装しています。
そのため、専用機器を組み合わせるのではなく、汎用的なIAサーバを用いてシングルサーバ構成でローカル5Gシステムを実現する事が可能です。そのため、PoC(Proof of Concept:概念実証)などにおける導入コストの低減や導入期間の短縮が期待できます。
※1 MEC(Multi-access Edge Computing)とは、携帯端末やIoT機器などの端末により近い場所にサーバを分散配置することで“低遅延"を実現するネットワークアーキテクチャ技術です。
高い拡張性
当社システムはオールインワン型ではありながらも、一部のコンポーネントを他社専用機器と組み合わせて活用する事も可能です。利用者の個別要件に応じた柔軟なローカル5Gシステムの構築が可能です。
MECアーキテクチャによる「低遅延」の実現
5Gのメリットを享受するには、動画データなどの大容量データを高速に処理する事が求められます。当システムではMECアーキテクチャを採用し、デバイスにより近い場所にアプリケーションサーバを配置する事が可能です。この構成をとることでシステム全体としての「低遅延」処理を実現します。
当システムを活用したプロトタイプとして、MECにXRアプリケーションを搭載したリアルタイム遠隔支援システムのデモンストレーション動画をご紹介します。
今後、SCSKでは本システムの性能強化を進めると共に、お客様との共創・実証実験などを通してMECに対応するさまざまな5Gアプリケーションの開発、検証を推進してまいります。
プレスリリース:https://www.scsk.jp/news/2022/press/product/20220331.html