XRのアプリケーション・プラットフォームと2D/3Dモデルデータに関する研究開発~XRのビジネス利用の展望~
現実空間とデジタル空間を融合する技術の総称であるXRは、2010年代にeスポーツやスマホゲーム、遊園地のアトラクションなど、主にエンターテイメント向けに利用されていました。しかし近年、XR周辺技術の進化や開発環境の整備により、「メタバース」と呼ばれるアバターを介したコミュニケーションをネットワーク上で可能にする仮想空間が登場しました。これにより、メタバースやその基盤となるXRに対する注目が、エンターテインメント業界を超え他の業界にも広がっています。
XRは製造業、観光業、教育といった多様な分野での応用が拡大しており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるコミュニケーションのオンライン化がさらなる推進力となりました。このような背景から、XRは幅広い分野でのビジネス利用が期待されています。
ここでは、XRが社会やビジネスにもたらす可能性や、SCSKで行われている研究開発について紹介します。
XRとは何か?
XRとは、バーチャルリアリティ(VR)、拡張現実(AR)、混合現実(MR)といった現実空間とデジタル空間を融合する技術の総称です。ヘッドマウントディスプレイやスマートフォンを用いて、オブジェクトやワールドを認識し、現実空間とデジタル空間の融合をもたらします。「オブジェクト」とは、コンピュータグラフィックスで作成された2次元または3次元のモデル(2D/3Dモデル)を指し、「ワールド」とはこれらオブジェクトの集まりから成る空間で、ユーザーがデバイスを通じて見ることができる環境を意味します。
また、XRで実現できる価値や世界観の特徴としては、「あたかもそこにモノがある」「あたかもそこにヒトがいる」というような空間的または身体的な拡張や、時間や場所を問わない空間の再現性とそこでのリアルな体験などが挙げられます。
XRにはハードウェア(※1)、アプリケーション・プラットフォーム(※2)、2D/3Dモデルデータ(※3)の3つの要素が欠かせず、今後も各要素の進展が期待されています。
※1 ハードウェア:ユーザーが装着するヘッドマウントディスプレイ型デバイスやスマートフォン
※2 アプリケーション・プラットフォーム:オブジェクトやワールドを表現するサービス
※3 2D/3Dモデルデータ:2D/3Dモデルの見た目と動き方の設定情報
XRがもたらす可能性
用途の多様化
2016年には、コンシューマ向けVR用ゴーグル型デバイスが、主にゲームなどのエンターテイメント業界で相次いで発売されました。近年では、ハードウェア・アプリケーション・プラットフォーム・モデリングの各々で技術の発展やサービスの普及が見られ、その結果様々な業界でXR利用への関心が高まり、ビジネス利用の拡大が期待されています。
XRの普及に向けた課題
ビジネスシーンでのXRの利用が進む一方で、その普及をさらに加速させるためには克服すべき課題が存在します。以下に2点、主要な課題を挙げます。
デバイスの性能やネットワーク環境への課題
XR体験の質は大きくデバイスの性能とネットワーク環境に依存します。オブジェクトやワールドに関するデータは、サーバーからユーザーのデバイスへ送られアプリケーション上で再構築するため、デバイスが処理できるグラフィック性能やデータ転送間のネットワーク環境によって体験の質が左右されてしまうという課題があります。
人材不足
高品質なオブジェクトを作成するモデリング作業は、専門的な知識と技術を要します。しかしながら、この分野の専門人材は不足しているのが現状です。
これらの課題に加えて、XRが広く普及するためには、現実世界に近いリアリティを感じるためのさらなる高性能化や、より多くの人がアクセスできるようなハードウェアの低価格化など、解決すべき多くの課題があります。
ビジネス向けXRソリューション市場規模
ビジネス向けXRソリューション市場とは、企業間取引(BtoB)や、企業から企業経由の消費者への取引(BtoBtoC)を対象としており、法人顧客へ提供されるソリューションの売上を示します。この市場にはゲーム分野を除外した、ゴーグル型デバイス、スマートフォンやPCが含まれ、国内では2026年に1兆円強の規模の市場になることが予想されています。
ビジネス向けXRソリューション市場規模は大きく、今後もビジネス利用が拡大していく見込みです。
出典:デロイト トーマツ ミック経済研究所株式会社「ビジネス向けXRソリューション市場の現状と展望 2022年度版」(2023年1月23日発刊)を基に作成
ビジネスユースケースの紹介
教育・トレーニング
製造/流通/データセンター/エネルギー
XRを活用することで、遠く離れた場所にいる人同士でも、同じ空間にいるような体験が可能となります。そのため、熟練工が遠隔にいる場合でも、設備機器の点検や不具合の際、不慣れな現場作業者により正確な指示を出すことが可能です。
コールセンター/小売
VRを取り入れることで、遠隔地に特殊な研修施設を設ける必要がなくなります。また、人員不足や事業拡大による従業員の不定期採用時にも、企業固有のノウハウを加味した柔軟な研修を行うことが可能となります。 さらに、360度のVR映像を用いることで、カスタマーサービスやマネジメント、繫忙期の店舗運営など、多彩なシチュエーションでの研修が可能になります。これには、ロールプレイ形式で行動選択をするシステムや、講師不要で進められるトレーニングプログラムが含まれています。これにより、さらに実践的で効果的な研修が行えるようになります。
ナビゲーション
データセンター/製造/モビリティ
AR技術を導入することで、実際の空間に仮想的な作業ガイドを表示させることが可能となります。作業箇所に必要な作業手順を限定的に表示することも、目線や音声による作業手順書の操作も可能なため、作業の正確性と効率性が向上します。 また、物理的なマニュアルを作業場に持ち込む必要性もなくなります。
観光
XRを利用することで、スマートフォンやタブレット端末などのデバイスを介して、実際の場所に仮想的な説明文やキャラクターを表示させて施設等の案内を行うことが可能です。これにより訪問者は、観光地や名所をより詳細に、しかも楽しみながら体験することが可能になります。 また、ガイド側も遠隔地にいながら観光客の向いている方向や動きをリアルタイムに把握し、適切な情報提供を行うことができます。
窓口業務
金融
VRを活用することで、オンラインでも実店舗に近いサービスを体験することができます。自宅にいながら手続きや相談も可能なことから、こうしたサービスに対する需要はますます高まっています。また、人手不足の軽減や新たな販促・集客も期待できます。
SCSKのXR研究開発に関する取り組み
アプリケーション・プラットフォームに関する取り組み
Virtual Hand(ユーザー同士の手振りを互いに知覚させる技術)
従来のヘッドマウントディスプレイを活用した視界共有による遠隔からの支援は、主に音声指示に依存していました。バーチャルハンドを用いることで、ユーザー同士の手振りを互いに知覚させることができ、作業箇所や作業内容の摺合わせが容易になります。
2D/3Dモデルデータに関する取り組み
3Dキャプション(画像からデジタル空間上に現実空間を再現する)
Virtual Handでのオブジェクト作成時の品質向上を目的にしたものです。現実空間に似たオブジェクトやワールドを作成するための高度な知識を簡素化し、動的な環境下でのワールド再構築が必要となる課題の解決に役立っています。