講演「生成AIで進化するシステム開発 – SCSKのデジタル化への取り組み」~SoftBank World 2024 講演レポート~
2024年10月3日(木)・10月4日(金)、「SoftBank World 2024」が開催されました。本イベントにSCSKの技術戦略本部 副本部長 堀井が登壇し、SCSKにおける生成AIを活用したシステム開発のデジタル化について講演しました。本記事では、当日の講演内容をご紹介します。
イベント概要
SoftBank World 2024は、ソフトバンク社が主催する法人向けイベントです。ソフトバンク社が注力する、AI時代の基盤となる次世代社会インフラ構築に向けた取り組みのほか、AIを活用した社会課題の解決など、AIをはじめとした最新テクノロジーの活用事例が紹介されました。
SoftBank World 2024 https://www.softbank.jp/biz/events/softbank-world-2024/
登壇者紹介
講演「生成AIで進化するシステム開発 ~SCSKのデジタル化への取り組み~」
取り組んでみて分かった「生成AI活用」の課題
昨年よりSCSKでは生成AIの活用を進めており、システム開発への適用が始まっています。
当社では、まず自社内で生成AIを使用し、その中で得た課題解決の知見をお客様へ提供する形で取り組んでいます。これまでに、社内およびグループ会社内での生成AI活用の事例に加え、サービスやソリューションを用いたお客様の事例も多数出てきています。
■生成AI活用を推進する上での様々な課題
生成AIは優れた技術であり、今後さらなる進化が期待されます。しかし、すべてのユーザーがこの技術を適切に使いこなせるわけではありません。従来のツールは人の作業方法にあわせて提供されていましたが、生成AIはその使用を前提にアプローチを変える必要があります。SCSKにおける活用推進の過程でも、「生成AIを開発でどのように活用すべきかわからない」「従来のツールと異なり不安定な側面がある」「想定したほど生産性が向上しない」、といった様々な課題が発生し、開発作業における利用が思うように進展しませんでした。
■AI駆動型開発に取り組む際の考慮点
生成AIを用いた開発では、生産性の向上、品質や保守性の改善、成果物の機能向上が期待されますが、必ずしもこれらの効果が得られるとは限りません。なぜなら利用者の能力や環境の違い、生成AIに入力するデータの品質によって得られる結果が変動する可能性があるためです。また、生成AIを活用する際にはセキュリティやコンプライアンスのリスクへの対応、特定の生成AIへの過剰な依存となるロックイン回避などの対策も検討する必要があります。
SCSKではこれらの課題に対し、開発のデジタル化とAI駆動型開発プラットフォームによる解決を目指しています。
システム開発への生成AI適用~AI駆動型開発から、開発のデジタル化へ~
■AI駆動型開発で目指すこと
プロセス全体に生成AIを適用することで、システム開発の生産性・品質の飛躍的向上が期待できます。ただし、単に生成AIを導入するだけでは不十分であり、各開発作業に応じた生成AIの適切な選択と、AI以外のツールとの組み合わせが必要です。さらに、これらの工夫を開発に関わる全ての人と共有しながら進めることが求められます。
以降では、AI駆動型開発と、その推進のために重要な要素となる、開発のデジタル化について説明します。
■AI駆動型開発と開発のデジタル化
1)従来のシステム開発における成果物の作成スタイル
従来のシステム開発における成果物の作成は、前工程の担当者から成果物を受領し説明を受けた後に成果物を作成します。これは、人が作成・確認しやすい形式で成果物を作るプロセスです。
2)AI駆動型開発における成果物の作成スタイル
AI駆動型開発では、AIが成果物のドラフトを生成し、その修正を人と生成AIが協働して行います。事前にドラフトを生成することで、ゼロからの作成に比べて作業がより効率的に進行します。加えてこのドラフト作成が各工程で作業する人全員に提供されることで、工程が始まる段階では成果物の整合性が確保されます。
しかし、ドラフト版の成果物には不整合が発生する可能性がありますのでレビューが重要です。成果物レビューは人の目により行われますが、成果物が多い場合はサンプリングで対応するケースもあります。レビューに生成AIを活用すれば効率的な全量レビューが可能となり品質向上に寄与します。
さらに、ドラフト生成・修正・レビューという形で工程を繋ぎパイプライン化することで、工程をまたぐ際のコミュニケーションロスに起因した品質が低下するリスクを低減し、一貫したシステム開発を行うことが可能です。
3)AI駆動型開発の成果物をデジタル化
AI駆動型開発をさらに推進するためには、成果物を人が作成・確認しやすい形式ではなく、生成AIやソフトウェアが処理しやすいデジタルデータとしてデータベースに格納する必要があります。これにより、AI駆動型開発の開発プロセス全体への適用が可能となり、システム開発の作業をパイプライン化できると考えています。
4)「AI駆動型開発」で効率化しつつ、「デジタルな開発」へ
このような生成AIによる成果物作成を核としたデジタル開発への移行は、生成AIやITシステムの成果物の自律的な再利用と、定量的な可視化・分析を実現します。結果として、個々の案件で作成された成果物が他の案件でも再利用しやすくなり、生産性と品質のさらなる向上が期待できます。
AI駆動型開発プラットフォーム
■開発のデジタル化で生じる3つの変化
従来の開発プロセスに生成AIを適用しデジタル開発に移行することにより、次の3つの変化が生じます。
成果物の作り方の変化
生成AIが成果物を生成し、人は生成されたドラフトを確認・修正する。作業プロセスの変化
生成AIが開発作業をパイプライン化し、各工程間の境界が薄れる。デジタルデータの蓄積と再利用
生成・作成された成果物がデジタルデータとして蓄積され、容易に再利用可能となる。
■生成AIを利用した開発における「デジタル化」とは
生成AIを利用した開発におけるデジタル化においては、単にデータを蓄積するのではなく、標準化されたデータ形式で保存することが重要です。人を中心とするアナログな成果物作成で生成AIを使用すると、情報の不統一による修正の難しさや生成結果に対する理解不足から、技術的負債が増大し保守性が低下するおそれがあります。その結果、効率向上が見込まれる一方で技術的負債を抱えた成果物が増加するリスクが高まります。
データを標準化することで生成AIの成果物の自動化や再利用が可能となり、保守性も向上します。
■AI駆動型開発プラットフォームの機能構成
開発のデジタル化を進めるためには3つの変化に適応するとともに、生成AIを正しく利用して生産性と品質の向上を実現するための基盤が必要です。AI駆動型開発プラットフォームは、「生成実行・制御機能」、「生成機能」、「生成結果格納機能」といった機能と、それら機能を利用するためのインターフェースで構成されています。中心となるのは生成AIを含む生成機能です。この機能は、生成結果を標準化されたデジタルデータとして格納する機能と、プロンプト(指示や合図としてAIに入力されるテキストデータ)などのノウハウを組み込んだ実行制御機能で構成されています。さらに、開発者が利用しやすいUIである開発ツールがこれらの機能を補完します。
以下の画像は、現在開発中のAI駆動型開発プラットフォームのUIです。汎用チャットではなく、開発作業に特化した開発ツールのUIを採用していますが、内部処理には生成AIを利用しています。必要なパラメータを入力し、ボタンを押すだけで生成処理が実行されるため、プロンプトを覚えておく必要がありません。また、生成結果は標準化されたフォーマットでデジタルデータとしてデータベースに格納されます。
生成AI活用からデジタル化へ~SCSKのシステム開発のデジタル化でわかったことをお客様の事業のデジタル化に活かす~
■開発作業のデジタル化の課題 ≒ お客様の事業におけるデジタル化の課題
システム開発のデジタル化における課題は、当社だけでなく、お客様の事業や業務のデジタル化にも共通するものと考えます。AI駆動型開発プラットフォームのユーザーインターフェースやプロンプト、生成結果のデータを調整することで、お客様の要件に最適化することも可能です。SCSKは、開発作業での経験を活かしたAI駆動型開発プラットフォームにより、お客様の生成AI活用とデジタル化に貢献できると考えます。
■生成AI活用から、開発のデジタル化へ向かうために
SCSKは生成AIを活用したシステム開発のゴールを、開発のデジタル化にあると考えています。IT人材不足が今後さらに深刻化する中で、生産性と品質の向上に生成AIは不可欠であり、生成AIの効果を最大化するためには、生成AIを開発プロセス全体に適用し、生成AIを中心に再構築する必要があります。この変化に人が適応するために「AI駆動型開発プラットフォーム」の構想が重要であると考えています。
システム開発での生成AIの活用を最大化する AI駆動型開発プラットフォーム化に関する概念実証を開始https://www.scsk.jp/news/2024/pdf/20241029.pdf
先進デジタル技術の最大活用による事業構造の変革や生成AI活用による飛躍的な生産性向上の実現を目指す、SCSK技術戦略「技術ビジョン2030」を公開しました。詳細は、下記リンクからご覧いただけます。
https://www.scsk.jp/sp/technology_strategy/index.html
また、SCSKでは共に活躍していただける高度デジタル人材を募集しています。詳細は各採用サイトをご覧ください。
新卒採用サイト
https://www.scsk.jp/recruit/saiyo/
キャリア採用サイト
https://www.scsk.jp/recruit/career/